挿絵本の世界展

きょうは町田で大学の同期とランチの約束をしてたので、ちょっと早めに出かけて、前から一度行ってみたいと思っていた町田市立国際版画美術館の、「挿絵本の世界~きれい、カワイイ、怖い 本と版画のステキな関係」展へ。

まずヨーロッパの印刷の歴史のおさらい。木版・手彩色の聖書の挿絵からはじまり、活版印刷の活字と挿絵の角度がおもいきりズレたものが展示されてたりして、マニアック。「神曲」の挿絵の中に登場人物のイニシャルが書きこまれてて、新しい!と思った。

この展覧会のメインは19世紀ヨーロッパの華やかな挿絵群。これを、きれい、カワイイ、怖いの3つに分類しましょう、ってのが面白い。

「きれい」はバーン=ジョーンズ、ミュシャ、ルペール、バルビエなど。
ミュシャは好きじゃないけどやっぱりすごい。バルビエは最高よね(うっとり)。
「ガゼット・デュ・ボン・トン」の原書は初めて見た。こんなに分厚かったんだ。
初期の資生堂デザインの元ネタ満載のファッション誌(でも今の感覚だと超豪華本)。ポショワールといって、ステンシルみたいな手作業で着彩されてたそうだ。ははあ~。
印刷といっても版画みたいなもので、ごく少部数だし、そりゃ上流階級志向にもなるわ。

「カワイイ」はウォルター・クレイン、ケイト・グリーナウェイなど。
グリーナウェイってべつにそんなに絵は上手くないと思うんだけど、たしかにカワイイ。でもこのカワイイは、昨今日本でいわれてるカワイイとは微妙に違うカワイイだと思う。

「怖い」はウィリアム・ブレイク、ビアズリー、マネ、ルドンなど、すごいメンツ。
そう「怖い」は一大ジャンルなのだ!もちろんみんなモノクロ。怖いはモノクロ。
怖いがいちばん見るものの心にダイナミックにゆさぶりをかけてくるというか、扇情的というか、もうちょっとで下品の側にころびそうな危うさを感じさせた。
ここまでだけでもすごい数の絵で、かなり見ごたえがあったけど、テニエルとかラッカムとかの絵がなかったのがちょっと意外なような気はした。

最後のコーナーは、20世紀のアーティストによる挿絵。シャガール、ドニ、ピカソ、デュフィ、カンディンスキーなど。
シャガールは彼の世界をそのまま小さくした感じ。デュフィ素敵。ドニも可愛くて大好き。
でもいちばん気に入ったのはオスカー・ココシュカの力強い線描の挿絵だった。

ヨーロッパの挿絵に描かれている人物って、風景と同じ強さというか、顔の描き方が非常にそっけなくて、したがってキャラクター性がほとんどなくて、それが全体の調和と、落ちついた上品な雰囲気につながっている。同じ版画でも、日本の鈴木春信とか歌麿とかはかなりキャラクターが強い。

浮世絵は人物にフォーカスするあまり、全体の構成はいいかげんだったり、背景を雲母刷りでごまかしたり適当なのも多い。でもそのぶん粋で、勢いがある。

見る前は、きれい、カワイイ、怖いに「カッコイイ」を入れてもいいのでは?と思ってた。
でも、カッコイイという価値観は、あちらの挿絵には、もしかすると元々ないのかなあ。

「おしゃれ」なカッコよさはきれいに分類できるだろうし。日本の小説挿絵だと、剣豪ものとか、カッコよくヒロイックに突き抜けたものも多いけど、ヨーロッパのものって、上流志向なせいか騎士道ものでもカッコイイよりきれい寄りだし、今回はなかったけど、もっと大衆的なミステリーとかの挿絵でも上品で妙に大人っぽい。
でもラファエル前派なんかはけっこう庶民的で下品だし、カッコイイも探せばあるのかも。さらにもうひとつ分類を加えるなら「エロい」だろうけど、、、。

図書館情報学専攻だった友人Kによれば「本」という形態はそれ自体すごい大発明だった。
「本」は便利だったからこそこれだけ利用され、広まった。
いま電子書籍の話題でもちきりだけども、基本的に世間は便利な方向に流れて行くと思う。
わたしの絵は一応CGだから、電子書籍で見られることに対する抵抗はなくて、なるようになれという感じだけど、紙の本って、やっぱり魅力的だよねえ。。。