青函紀行 その4

叔母の家の窓からは津軽海峡が見える。今朝は少しガスがかかり、下北半島が霞んでいた。(そういえば昨日の朝もホテルの窓の外が真っ白で、びっくりして起きたんだった)
でもお天気は良く、名物の朝市を冷やかしに行ったときは、だいぶ日差しが強かった。
地元の人は朝市や観光客向けの海鮮丼屋さんが軒を連ねるエリアなどには行かないので、叔母にとっても珍しいらしく、ちょっとはしゃぎながらひとめぐりした。

駅前で見送ってもらって10:40発の特急に乗った。ここからは一人旅。
青函トンネル記念館というところに、ずっと行ってみたいと思っていた。
いちおう地上からも行けるのだが、地下の坑道を見学するには電車で行くしかない。
今年12月に青森まで新幹線が開通するけど(青森ではポスターがたくさん貼られてた)、いまは北海道新幹線開通にむけての工事中なので、二つある海底駅の片方は閉鎖されて、見学できるのは本州側の最北端、竜飛岬の地下にある竜飛海底駅だけ。
この駅に停車する電車も1日にたったの4便のみ。新幹線開通後はたぶん見学できなくなる。

予約が必要ということで渋谷駅に行ったとき、窓口の人がこの記念館を知らなかったので、そんなマイナーな海底140mの駅で、他に見学者がいなかったらどうしようと不安だった。
でも、停車前に、2両目からしか降りられないので集まるようにというアナウンスがあり、出口に行ってみると、リタイア後とおぼしきおっさんや鉄ちゃんがごちゃっと集まってた。
それはそれで不安になったが、あとから家族連れも来たのでひと安心した。
坑道内の案内係の人もいっしょの電車に乗っていた。

海底駅の、人ひとりしか通れない、暗くて細いプラットホームに降り立ってからは大興奮。電車の走る「本坑」に並行している「体験坑道」を歩いて記念館に向かった。

ごつごつした壁や天井、地下水を排出するための太いパイプ、火災発生時のための風門、メンテナンスの人たちがトンネル内を移動するために使う自転車(ふつうのママチャリ)。
ここができた昭和63年当時、見学者でにぎわったころを偲ばせる、さびたジオラマや、使われなくなって久しく、土に還りかけている「竜宮水族館」も興味深かった。

工事に使われた機械や、資料の展示にはあんまり興味なかったけど、係の人の説明も聞きたいし、いろいろ見るのも忙しいし、ばたばたダッシュしまくって、ふつうに体験コースを歩く距離の1.5倍くらいは走ってたんじゃないかなあ。
そしてケーブルカー「もぐら号」に乗り、長~い斜坑を通って地上の記念館へと登った。(もぐらはここのキャラで、80年代風の絵柄。こんなとこにももれなくキャラがいるのね)

海底駅といっても、ほんとの海のド真ん中にあるわけじゃなくて、工事中や、有事に地上と出入りできるように、海と陸地の境界あたりにある。
実際、記念館のあるところは、工事中には基地だったらしい。

やっと地上にでると海がまぶしく見えた。記念館は道の駅もかねているけど人はまばら。
記念館自体もちょっとした展示物と映像コーナーがある程度で、本物のトンネルを見てきたあとではどうということもなかったが、プロジェクトX的な映像は、なかなか感動的だった。

何度も起きた事故や、開通式の様子。とにかく昭和っぽいというか、青春っぽいというか。
工事中にいっぱい人死んでるし、現代の感覚だと、よくまあこんな無茶したよなって感じ。
でも、実際にその跡地に立ってみると、やっぱり圧倒されるものがあったし、なんだかよくわからないけど、ここで人間のものすごいエネルギーが発揮されたのは確か。
ナレーションは、最後に、いつか北海道に新幹線が通るのが夢だ、と語っていた。兵どもが夢の跡だなあ、と思った。

また海底駅まで戻って電車に乗って、三たび青森駅に着いたのは15時近くだった。
そのままタクシーで青森県立美術館へ。美術館行きのバスが少ないのでしかたなく。
まず入り口にあるシャガールの「アレコ」の背景画がほんとに素晴らしかった。バレエの舞台背景用の3枚の巨大な幕。これずっとみてるだけで満足できそうなほどだった。

企画展が「ポンペイ展」で、元々あまり興味がなく、常設展だけ見るつもりだったけど、おととい三内丸山遺跡に行ったせいで、ちょっと見てみようかなという気になった。
壁に描かれていたのを剥がして復元した、フレスコとモザイクの絵が面白かった。
絵のいい悪いではなく、前に立つとその家で暮らしていた昔の人々の気配が感じられるようで、これが、ふつうの絵画よりも生活に密接した壁画というものの力なのかなあと思った。

それから常設展。青森出身の人の作品を集めているので、ばらばらといえばばらばらだけど、「あおもり犬」をはじめ、奈良美智の作品をまとめて見られるし、棟方志功のでっかい肉筆画がすごく良かったし、寺山修司の部屋も独特の雰囲気だった。
時間を忘れて見ていたら、帰りのバスの時間に遅れそうになってしまった。またばたばた走って、ちょっと離れたとこにある奈良美智の「八角堂」を一応見るだけ見た。
なんとかバスに間に合い、青森駅に戻ると、そこでまた別の長距離バスに乗り換えた。ここの乗り換えの時間が短くて心配だったのだけど、どうにかうまくいった。

高速道路からみる景色は、こないだの八甲田山の道路なんかに比べると単調だったし、だんだん暗くなってきたので、ちょっとウトウトしたりしているうちに、盛岡に到着した。

盛岡に来るのはまったく初めてだけど、曾祖父の出身地。どんなところなんだろう。
朝からまともなものを食べていなかったので、まずは駅前の盛楼閣で盛岡冷麺。
疲れていたし、こんな冷麺は初めてで、とても美味しく感じた。もう8時過ぎていたけれど、今晩泊まるところを決めていなかったので、食べながら検索。

ここまで来たんだから宿まで行って実際に見て、気に入ったところに泊まろうと考えた。それで少しうろうろして、安くて便利そうで、古いけどいい雰囲気のところをみつけた。
ネットで予約した方が安いだろうと、某サイト経由で何度か申し込んだけどうまくいかず、電源は減っていくし、ちょっと焦ったが、べつの旅行サイトを使ったらすんなり取れた。
無事チェックインできて、ほっとした。