岩と泉の国へ

きょうはほぼ一日中バスで移動。路線バスだけどかなり長距離だから酔いそうで心配。
盛岡市街地を抜けるとすぐに山になり、それからはずっと山山山山山、ときどきダムとか川。わたしは、景色がよく見える一番前の席に座った。
でももう山も見慣れて、きれいな川も奥入瀬のあとではインパクトが弱い(なんて贅沢な)。

乗客はとても少なくて、旅行者風なのはわたしともう一人の女性だけだった。でもたまに、周りに木しかないけどいいの?みたいな場所で乗ってくる人や降りる人がいた。
運賃表は、千円、二千円とどんどん値上がりしていった。

少しバスに酔って、だんだんうんざりしてきたころ、道の駅三田貝分校というところでトイレ休憩があった。路線バスなのに。
気分転換にフリスクでも買おうと売店を見ていたら、バスの運転手さんが話しかけてきた。ここのカレーパンは美味しくて、いつも売り切れてるのにきょうは珍しくまだ残ってると。運転手さんはカレーパン嫌いだったのにこれを食べてから大好きになったんだとか。

内心、揚げ物食べるような気分じゃないなあ…と思ったけど、言われるままに、そのカレーパンと、ついでに岩手短角牛コロッケも買い、バスに戻った。カレーパンはたしかに美味しかった。もう一人のお客さんにもひと口お裾分けした。
ふしぎと気分も良くなり、ここからは3人でおしゃべりしながら行くことになった。

岩泉町の中心部に入ると、バス停も乗降客も少し増えた。バスを降りていく人や前を横断する子どもたちはみんなバスに向かって深々とお辞儀してた。
そして2時間以上かかって、ようやく終点、龍泉洞前に到着した。

龍泉洞は日本三大鍾乳洞のひとつで、ここの水は世界でも有数の透明度を誇るのだそうだ。
入り口の前にも渓流が流れていて、洞窟に入るといきなり、驚くほど青く透明な水たまり。水路の上に木で組まれた通路を通って奥に進んで行くと、これまた澄んだ、深い深い地底湖。
まるで宝石みたいな色。のぞきこんだまま、しばしのあいだ放心してしまった。

水の中に照明が仕込んであったので、水深98メートルの底まで見えているらしいけど、あまりにも水が透明すぎて、98メートルと言われてもピンとこない。
照明の色が変化したりするのはやりすぎな気もしたが、でもとても感動した。ときどきコウモリがばさばさーーーっっと顔をかすめて飛んでくのにはひやっとしたけど。
外に出ると隣にもう一つ小さな鍾乳洞があって、そちらには資料などが展示されていた。再び外に出たら、入り口とは全く見当ちがいの場所で、すぐ目の前が道路だったのには驚いた。

岩泉町産のブルーベリーを使ったソフトクリームを食べてると、次に乗るマイクロバスが来た。
龍泉洞からさらに山奥に30分ほど行ったところにある安家洞は、日本で最長最古の洞窟らしい。
バスは10人乗りくらいで、ほかの乗客は地元のお年寄り数人だけだった。

町営の龍泉洞と違い、安家洞(あっかどう)は私営なのでいろいろと素朴で、掃除用のブラシやホースがそのへんの岩の上に放置されてたのには笑った。
ほかに見学者はなく貸切状態だったので、友人Kの芝居の曲をくちずさみながら入っていった。

足もとはコンクリートで適当に固められていたし、わりと平坦で歩きやすかったが、ところどころ天井が低いところがあって、入り口で借りたヘルメットが非常に役に立った。
途中まではただの洞窟という感じで、龍泉洞のような湖があるわけでもなく地味だったが、やがて、これぞ鍾乳洞!という白い見事な「神殿」にたどりついたときには本当に感動した。

見学コースの終点には柵があって「ここで終わりです」という手書きの看板が置かれていた。
地図によれば、奥には千枚皿もあるらしかったのに、見られなくて残念。えーん。。。
しかたないのでそこで引き返して、もう一度ゆっくり神殿を見たり写真を撮ったりしていると、なんと、誰もいないはずの洞窟の奥のほうから足音がきこえてきた!!!
これには心の底からドッキリした。

で、その足音がまた速くって、どんどん近づいてくるので、岩のくぼみに隠れてたら(笑)、あらわれたのは本物の探検の人だった(ま、それ以外ありえないけど)。
いかにも探検家らしい格好の彼はにこやかにこんにちは!と言うと入り口のほうに消えてった。
わたしも、なごり惜しい気持ちで洞窟を出ると、さっきの探検家氏がどこかに電話をかけて、鍾乳洞の奥のどこが危険だとか、修復しないといけないとか、そんな話をしているようだった。

帰りのマイクロバスの客はわたしひとりだった。
さっきと同じ運転手さんに、鍾乳洞の感動を伝えると、本当に好きなんだねえとあきれられた。
おいしい湧き水のところで車を停めてくれたので、ペットボトルのお茶を捨てて水を汲んだ。

龍泉洞前で盛岡行きのバスに乗り換えると、乗客はふたりだけ。朝と同じ道の駅で休憩があり、朝とは別の運転手さんが、こんどは龍泉洞の水を使った缶コーヒーをおすすめしてくれた。
素直にそのコーヒーと、行きに食べて気に入った短角牛コロッケもまた買った。
龍泉洞の水はモンドセレクション金賞受賞だそうな。コーヒーも後味スッキリでおいしかった。

この道の駅は、運転手さんがお客に話しかけるポイントなんだろうなー。わたしは帰りも一番前に座ってたし、いかにも旅行者風で、どうやら話しかけやすいらしい。(単に食い意地がはってそうにみえただけかもしれないけど)学生さんですか?と聞かれて、一応社会人です、と答えてしまった。一応ってなによ(怒)。

ところが、今度はもう一人のお客の地元のマダムがものすごくしゃべりたがりの人で、身内の自慢話とか、今日辞任した鳩山総理の悪口とか、堰を切ったようにまくしたてはじめ、面倒だったので、運転手さんに相手をまかせて、わたしはほとんど黙っていた。

運転手さんは話題を変えようと、わたしにあれが岩手山ですよとか教えてくれたり、今の季節の木々の緑はそれぞれの木ごとに色が違ってるけど、もうしばらくすると、みんな同じ緑色になってしまうんだよ、とか話してくれた。
しかし必ずマダムが割り込んできて話をすりかえてしまう。
でも盛岡のグルメ情報や観光スポットなどを教えてもらえたのは良かったのかも。

終点盛岡駅の少し手前でバスを降りたのは夕方6時すぎ。風情のある寺町の周辺を散歩した。
岩手の県名の由来の岩が祀られてる三ツ石神社にも行った。マダムに教えてもらったので。
鬼が、もう悪さをしませんといってこの大きな岩に手形を残したという伝説があるんだって。
わたしは千葉育ちだけど千葉の語源なんて知らないなあ(あとで調べてもわからなかった)。

それからやはりマダムにすすめられた、名物じゃじゃ麺を食べに、白龍というお店に行った。
はまる人ははまりそうな味だったけど、んー、わたしはあんまり、、、だったかな。
疲れたのでさっさとホテルに戻った。
ロビーにたくさん置いてあったパンフレットを参考に、あしたどこに行こうか考えよう。