東京的なもの

夕方、大鹿さんから電話があった。松本に移住した原田さんが上京して来ているのだという。アート・バースディの搬入で、まさに東京に行くところだったから、搬入をすませたその足で、二人に会いに行った。

原田さんに会うのは2年ぶりで、うれしくて駅前で抱きついてしまった。
大鹿さんちの近所のお好み焼き屋でさっそく馬鹿話をしながら、新入りの店員さんが、店主にあーだこーだ言われながら焼いてくれるのを優しい気持ちで眺めた(店主は月島出身で、子供時代のクラスメイトはみんなお好み焼き屋の子だったそうな)。

そのまま、大鹿さんちに泊めていただくことになり、馬鹿話のつづきをたっぷり。
本当に内容のない、くだらない話ばかりなのだけど、純粋な馬鹿話は、気の合う人としかできないものだと思う。腹筋が痛くなるほど笑い転げた。
世間話や、時事ネタ、人の噂話などは場数をこなせば身につくコミュニケーション・スキルだし、趣味の話は趣味が合いさえすれば誰とでもできる。馬鹿話は、それが純粋であればあるほど、誰とでもできるものではない。

原田さんは東京的なものに飢えているようだった。松本はかなり綺麗で文化的な街だけれど、それでも物足りないところがあるらしい。
最近松本にもイオンが出来て(賛否両論あったらしいが)とても賑わっているそうだ。東京の人は、地方がどこも同じようになっていくのは残念だと言うけれど、結局イオンは便利なのだ。地方の人たちは、そこにしかない個性を大事にするよりも、他の地域と同じになりたいのが本音なんじゃないだろうか。
そしてそのモデルは東京なんかじゃなく、もしかするとイオンの本拠地である千葉市のようなところなのかもしれない。
わたしは千葉市に住んでいる。千葉はよくダサいと言われるし、松本のような芸術を愛する雰囲気はあまり感じられない。住んでみてわかるいいところもあるが、基本的には自己主張が少なく、ほどほどに便利なニュートラルな街だと思う。

みんなと同じが嫌な人や、地方に居心地の悪さを感じる人は東京に出て行く。東京には綺麗なものだけじゃなく、猥雑なものや汚いものも溢れている。世界中でそこでしか買えないものを手に入れられるお店もたくさんある。それが本当に文化的ってことなんだと思う。
観光でお台場やスカイツリーに行ったくらいでは、東京の本当の力は理解できない。時間をかけて裏路地を歩き、自分で自分の宝物を見つけなければいけないのだから、むしろ不便なくらいだ。

わたしは東京に20年近く住んでいて、その間に自分の好きなものの芽を見つけることができた。いつも家にこもって絵を描いてばかりいたから、千葉に越してきても生活はさほど変わらない。ここは余所者がやってきて近所づきあいしなくても暮らせるくらいには都会で、住みやすい街だ(もちろん、長く住んでいる人たちにはいろんなつながりがあるはずだけど)。
ただ、ずっとこもって作業していると、無性に下北沢あたりをふらふら歩きたくなるときがある。時々は東京的な空気をチャージしないとダメなんだろうなと思う。