湖めぐり

まだ暗いうちに早起きして、テルコさんと「裏山」に登った。裏山というから歩いて登るのかと思ったら車で、坂道をぐるぐると登っていくのでけっこうな距離だった。しかし、雲も下に見えるほどの高さまで登ってみれば、たしかにそこはまさに裏山としか言いようがない、お家の真裏の位置だった。もう少し寒くなったら雪で来られなくなってしまうらしい。

ハンググライダーが飛び立つためのぽっかり開けた場所があって、そこから日の出を眺めた。日の出より先に空が少し明るくなって、湖の反対側の山のかげから日が登ってくる。なんとも言えない空の色。太陽は赤く小さく可憐に見えた。木崎湖の上に小さな雲が浮かんでいるのも可愛らしかった。

背後には白樺の林と、うっすら雪をかぶった北アルプスがオレンジ色に輝いていた。
裏山を降り、木崎湖と並んで仁科三湖と呼ばれる、中綱湖(コンパクトで、紅葉が見事)と青木湖(大きくて、開けた感じ)を巡った。テルコさん曰く、それぞれの湖の周りに住む人々は、みんな自分のところの湖が一番いいと思っているのだそうな。

コンビニでパンとスープを買い、木崎湖のほとりのキャンプ場で朝食。ここのベンチはテルコさんのパートナー氏の手作りだそう。

お家に戻ると、パートナー氏は冬に備えてヤギ小屋を作っていた。小屋といっても立派な建物で、二階部分に斜面から板を渡してあり、そこをヤギが行ったり来たりしていた。まるで絵本の世界。春になったらヤギのお乳でチーズ作りに挑戦するんだそうだ。庭には木のブランコもあるし、アルプスのハイジとペーターみたいな暮らしだなと思った。

家の周りには他にもいろんなものがあって、畑には食用ほおずき、野沢菜などあまり馴染みのない作物も植えてあった。大きなトランポリンや一輪車まであった。
近所のおばあさんから電話があって、漬物用の大根をもらいに行った。その家には漬物専用の小屋があり、テルコさんは漬け方を教えてもらっていた。高齢化が進み、人口がどんどん減っているそうだけど、とても豊かで、移住者に親切な土地柄のようだ。
ふたりはこの場所とここの人たちが本当に好きで、ずっと住む覚悟を決めていた。そこまで土地を好きになるという感覚がわたしにはよくわからないけど、幸せを見つけたんだなあ、よかったなあと思った。

朝が早いと一日が長い。昼頃にはてくてく歩いて最寄の無人駅に向かった。電車の時間を確認して早めに着いたのだが、駅についたとたん、電車がホームにやってきた。おかしいな?と思いながら乗り込むと、逆の下り方向に動き出してびっくりした。2時間に1本あるかないかだというのに、まさか数分違いで反対向きの電車が来るとは思わんかった。
困って運転士さんにどうしたらいいか聞いてみたら、次の駅でもともと乗るつもりだった上り電車に乗り換えできると教えてくれた。お礼もそこそこに大急ぎで降りて反対側のホームにダッシュすると、すぐに電車がきた。危なかった。
 
そこからは居眠りしたり、乗り換えの松本駅で買ったお焼きをかじったり、スマホで今晩泊まる宿の予約をしたりしながら、しばらくのんびり電車に揺られた。
上諏訪駅で降り、観光案内所でもらった地図を手に目的もなく歩き出すと、すれ違った人たちが「酒蔵に行くならそこの信号を渡って云々」と親切に教えてくれたので、とりあえず酒蔵の並ぶ通りをぶらぶら歩き、ぐるりと回って諏訪湖の方へ。

諏訪湖はきょう行ったどの湖より大きく広々としていて、きれいに整備されていた。湖畔の公園には鴨の群れがいた(鳩かと思ったら違った)。
高速バスで関西方面に行く時、いつもトイレ休憩に立ち寄るのが諏訪湖サービスエリアで、そこから諏訪湖を眺めるのが好きだった。小学校の頃よく見ていた教育テレビの番組「たんけんぼくのまち」の舞台が諏訪市だったのもあり、なんとなく親しみがあった。
駅前に戻り、開いていた店を見つけて夕食を食べ(微妙)、スーパーで翌朝食べるパンとお茶を買った。

泊まったのは古い民宿で、個室は超狭かったけど、館内はきれいで趣があった。お風呂は一人しか入れないサイズだったけどちゃんと温泉で、熱くて気持ち良かった。